はじめに ― PESOモデルとは何か
現代の広報活動において、単一のメディアに依存した発信では不十分である。消費者の情報接触経路が多様化した今、企業は複数のメディアを組み合わせて一貫したメッセージを届ける「統合広報」の発想が求められる。
そのための最も有用なフレームワークがPESOモデルだ。
PESOとは: – Paid Media(ペイドメディア)― 有料メディア – Earned Media(アーンドメディア)― 獲得メディア – Shared Media(シェアードメディア)― 共有メディア – Owned Media(オウンドメディア)― 所有メディア
の頭文字を取った造語で、2014年にPR戦略家のジニー・ディートリック(Gini Dietrich)が体系化した。
【図2-1】PESOモデル ― 4つのメディアの全体像
| 💴 [P] Paid ペイドメディア | 📰 [E] Earned アーンドメディア | 📱 [S] Shared シェアドメディア | 🏠 [O] Owned オウンドメディア |
|---|---|---|---|
| テレビCM 新聞・雑誌広告 リスティング広告 SNS広告 | プレスリリース 取材・記事掲載 第三者レビュー 口コミ | SNS投稿・シェア インフルエンサー ハッシュタグ UGC | 自社HP・ブログ メルマガ SNSアカウント 動画チャンネル |
| ◎ 即効性あり ✗ コスト高 | ◎ 信頼性が高い △ コントロール不可 | ◎ 拡散力がある △ 炎上リスクあり | ◎ 蓄積資産になる ✗ 長期的取組が必要 |
2-1. Paid Media(ペイドメディア)― お金で「届かせる」力
定義と特徴
Paid Mediaとは、料金を支払って掲載・配信するすべてのメディアである。
主な種類
| 種類 | 具体例 | 特徴 |
|---|---|---|
| デジタル広告 | Google広告、Facebook/Instagram広告、YouTube広告 | 細かいターゲティング可能、効果測定が容易 |
| 記事広告・タイアップ | 新聞の広告記事、Webメディアのタイアップ記事 | 記事形式で信頼性が高い |
| 交通広告 | 電車・バスの中吊り、屋外看板 | 地域限定で高いリーチ |
| SNS広告 | Twitter(X)プロモーション、TikTok広告 | 若年層へのリーチに効果的 |
| プレスリリース有料配信 | PR TIMES、@Press、プレスリリースかごしまの有料配信 | メディア関係者への直接配信 |
Paid Mediaの強み
1. リーチのコントロール:予算と設定次第で、届けたい相手に確実にメッセージを届けられる。
2. タイミングのコントロール:新商品発売日、イベント開催日など、戦略的なタイミングで大量配信が可能。
3. ターゲティングの精度:デジタル広告では、年齢・地域・興味関心・行動履歴など細かい条件でターゲットを絞れる。
Paid Mediaの弱み
1. 費用がかかる:予算がなければ止まる。中小企業には負担が大きい場合がある。
2. 信頼性が低い:「お金を払って載せた情報」と見られるため、Earned Mediaより信頼度が低い。
3. 広告ブロック:デジタル広告はブラウザの広告ブロック機能で回避されることがある。
中小企業のPaid Media活用戦略
予算が限られる中小企業は、Paid Mediaは補完的に使うという姿勢が重要だ。具体的には:
- 新商品や重要イベントの告知に集中投下
- SNS広告でローカルエリアに絞った配信(鹿児島県内限定など)
- プレスリリース配信サービスの活用(プレスリリースかごしまへの登録配信)
- GoogleのMy Business(Google マップ)への情報更新(無料)
2-2. Earned Media(アーンドメディア)― 第三者が「語ってくれる」信頼
定義と特徴
Earned Mediaとは、メディア関係者(記者・編集者・ライター)が価値を認め、自主的に取り上げてくれた報道・掲載である。「獲得」という言葉が示す通り、お金で買うことはできず、信頼性と情報の質によって「稼ぐ」ものだ。
主な種類
| 種類 | 具体例 |
|---|---|
| 新聞掲載 | 南日本新聞、読売新聞(鹿児島版)などの記事 |
| テレビ取材・放映 | MBC南日本放送、KYT鹿児島読売テレビなどの特集 |
| Webメディア掲載 | ニュースサイト、業界メディア、ポータルサイトへの記事 |
| 雑誌掲載 | 業界誌、ライフスタイル誌などの特集記事 |
| ポッドキャスト出演 | 業界専門のポッドキャストへのゲスト出演 |
| アワード・表彰 | 業界賞、自治体表彰、グッドデザイン賞など |
なぜEarned Mediaが最も価値が高いのか
読者・視聴者の立場から見ると: – 広告は「企業が自分のために書いた情報」として割り引いて受け取る – 記事は「記者が取材し、編集者が確認した客観的な情報」として受け取る
この違いが、信頼性の大きな差を生む。日本のリサーチ会社の調査では、新聞記事で紹介された商品は、同内容の新聞広告より購買意欲への影響が2.3倍高いというデータもある。
プレスリリースがEarned Mediaの起点となる
Earned Mediaを獲得するための最も基本的なツールがプレスリリースである。プレスリリースは、記者への「取材依頼書」であり「情報提供書」だ。
プレスリリースの質と配信先の適切さが、Earned Media獲得の成否を大きく左右する。
質の高いプレスリリースの要件(詳細は第11章で解説): 1. ニュース価値のある情報(新規性・社会性・地域性) 2. 記者が記事を書きやすい構成と情報量 3. 使いやすい写真・画像素材の同梱 4. 取材可能な担当者の明示
2-3. Shared Media(シェアードメディア)― 共感が「広げてくれる」ネットワーク
定義と特徴
Shared Mediaとは、SNSや口コミプラットフォームを通じて、消費者・ユーザーが自主的に情報を共有・拡散することで生まれるメディアである。
主な種類
| プラットフォーム | 特徴 | 主な対象 |
|---|---|---|
| ビジュアル重視、地域・グルメ・ライフスタイル情報が強い | 20〜40代女性 | |
| X(旧Twitter) | 拡散力が高い、速報性、テキスト情報向き | 20〜40代全般 |
| 実名文化、地域コミュニティ、BtoB情報 | 30〜50代ビジネス層 | |
| TikTok | 動画特化、バイラル拡散、若年層 | 10〜30代 |
| YouTube | 長尺動画、SEO効果、信頼性の高いコンテンツ | 幅広い年齢層 |
| LINE | 日本のコミュニケーション基盤、グループ共有 | 全年齢層 |
Shared Mediaのゲームチェンジャー的役割
Shared Mediaが革命的なのは、普通の消費者が情報の発信者になれるという点だ。鹿児島の飲食店で感動的な体験をした一人が「#鹿児島グルメ」タグをつけてInstagramに投稿すれば、その情報は数百〜数千の人に届く可能性がある。
これは従来の広告では到底不可能だったリアルな口コミの爆発的拡散であり、企業にとってはコストゼロで最大の宣伝効果を得られるチャンスである。
共感を生むコンテンツの法則
Shared Mediaで拡散されるコンテンツには共通の要素がある:
1. 共感性(Relatability):「わかる!」「これ自分も思ってた」という共感を呼ぶ内容
2. 情報価値(Informational Value):知って得した、友達にも教えたい有益な情報
3. 感情的な反応(Emotional Response):驚き、感動、笑い、怒りなど強い感情を引き起こす内容
4. ビジュアルの美しさ:特にInstagramでは見た目の美しさが拡散のトリガーになる
5. ストーリー性:人物の物語、ビフォーアフター、旅のような展開を持つコンテンツ
インフルエンサーマーケティングとの連携
Shared Mediaを効率的に拡散させる方法の一つが、フォロワーの多いインフルエンサーやマイクロインフルエンサー(数千〜数万人のフォロワー)との連携だ。
鹿児島では、地域の料理インフルエンサー、観光ブロガー、地域密着YouTuberなどが存在しており、商品やサービスの体験取材を依頼することで、ターゲット層へのリーチを飛躍的に高めることができる。
2-4. Owned Media(オウンドメディア)― 自社が「所有する」情報拠点
定義と特徴
Owned Mediaとは、企業が自ら所有・管理するメディアチャネルである。外部のアルゴリズム変更や広告ポリシーの影響を受けず、長期にわたって自社の情報資産を蓄積できる点が最大の特徴だ。
主な種類
| 種類 | 役割 |
|---|---|
| 自社Webサイト | ブランドの基盤、商品・サービス情報のハブ |
| オウンドメディア(ブログ・コラム) | SEO効果、専門性の証明、見込み顧客の育成 |
| メールマガジン | 既存顧客との直接接触、高いコンバージョン率 |
| 公式SNSアカウント | 継続的な関係構築、コミュニティ形成 |
| 社内報・広報誌 | 従業員エンゲージメント、採用ブランディング |
| YouTube公式チャンネル | 映像によるブランド表現、SEO効果 |
| ポッドキャスト | 専門知識の発信、深いエンゲージメント |
オウンドメディアが「最強の長期資産」である理由
理由1:アルゴリズムに依存しない SNSプラットフォームのアルゴリズム変更(FacebookやInstagramは度重なる変更で企業投稿のリーチが大幅低下した)の影響を受けず、自社のメッセージを確実に届けられる。
理由2:コンテンツが資産として蓄積される Webサイトに掲載した記事は、2年後、5年後も検索エンジン経由で新規読者を獲得し続ける。広告のように予算が切れたら止まることがない。
理由3:SEO(検索エンジン最適化)効果 質の高いコンテンツを継続的に発信することで、「鹿児島 黒牛 通販」「鹿児島 工務店 おすすめ」などのキーワードで検索上位に表示されるようになり、見込み客の自然流入が増加する。
オウンドメディアのコンテンツ戦略
オウンドメディアで発信すべきコンテンツは大きく3種類:
1. 専門知識・ノウハウ(How-to)コンテンツ 例:「黒毛和牛を最も美味しく食べる調理法5選」「鹿児島の注文住宅で失敗しないための10のチェックリスト」
2. ブランドストーリーコンテンツ 例:「創業50年。私たちが焼酎造りにこだわり続ける理由」「農家の三代目が語る、鹿児島の食の未来」
3. ニュース・プレスリリースアーカイブ 例:新商品情報、受賞・認定情報、メディア掲載実績
2-5. PESOモデルの統合戦略 ― 4つを組み合わせる
PESOの4つのメディアは独立して機能するのではなく、相互に連携・補完することで最大の効果を発揮する。
【図2-2】PESOモデルの相互作用サイクル
統合戦略の実例:鹿児島の食品メーカーの場合
Step 1(Owned):新商品「鹿児島産黒豚の手づくりソーセージ」の詳細ページを自社Webサイトに掲載。製造工程の動画もYouTubeに公開。
Step 2(Paid):商品ページへの流入を増やすため、鹿児島県内のFacebook・Instagram広告を2週間配信。
Step 3(Earned):プレスリリースを「プレスリリースかごしま」と南日本新聞社に配信。取材対応の準備を整える。
Step 4(Shared):地元の料理インフルエンサー3名に商品を提供し、SNS投稿を依頼。「#鹿児島ソーセージ」「#鹿児島グルメ」タグの活用を提案。
Step 5(Earned):プレスリリースきっかけで地元情報番組が取材。商品の製造現場と開発ストーリーが特集される。
Step 6(Shared):テレビ放送後、視聴者がSNSに投稿。「テレビで見た!」という口コミが拡散。
Step 7(Owned):急増したWebサイト訪問者向けに「ご予約受付中」のバナーを設置。メールマガジン登録を促す。
このサイクルを繰り返すことで、ブランドの認知と信頼が指数関数的に高まっていく。
2-6. 中小企業のPESO優先順位
すべてのメディアを同時に同じ力で取り組むことは、リソースが限られる中小企業には現実的でない。段階的に取り組むための優先順位の目安を示す。
優先順位ロードマップ
フェーズ1(着手後0〜6ヶ月):基盤構築 – [Owned] 自社Webサイトの整備・SEO対策 – [Owned] プレスリリースの定期配信(月1〜2回) – [Owned] 公式SNSアカウントの開設と継続投稿
フェーズ2(6ヶ月〜1年):露出拡大 – [Earned] プレスリリース配信とメディアへのアプローチ強化 – [Shared] SNS投稿の質向上と地域コミュニティへの参加 – [Paid] 重要イベント・商品発売時の小規模広告テスト
フェーズ3(1年以降):統合最適化 – すべてのPESOを相互連携させた統合広報計画 – データを基にした効果測定と継続改善
【図2-3】PESO各メディアの特性レーダーチャート(概念図)
信頼性
│
★★★★★│ E●
│ ╱ ╲
★★★★│ ╱ ╲
│╱ ╲
★★★ ●O ●S
╱│╲ ╱│
★★ ╱ │ ╲ ╱ │
╱ │ ●P │
★ ╱ │ │
└────┼───────┴────→ 拡散性
│
P=Paid E=Earned S=Shared O=Owned
※縦軸:信頼性 横軸:拡散性(概念的な位置づけ)まとめ ― 本章のポイント
- PESOモデルはPaid・Earned・Shared・Ownedの4つのメディアを統合する広報フレームワーク
- Paid:確実なリーチ。Earned:高信頼性。Shared:拡散力。Owned:長期資産
- 4つのメディアは独立でなく、相互連携することで最大効果を発揮する
- 中小企業はOwned→Earned→Shared→Paidの順で段階的に構築するのが現実的
- プレスリリースかごしまはEarnedとPaidをサポートするプラットフォームとして機能する
次章では、PESOを使った広報計画の前提となる環境分析 ― 3C分析を詳しく解説する。
本記事は「プレスリリースかごしま」広報ナレッジシリーズの第2章です。