はじめに ― プレスリリースは「記者への手紙」
プレスリリース(報道発表資料)は、企業がメディア関係者に向けて公式に発表する文書だ。毎日数百本のプレスリリースを受け取る記者の目を止め、「これは記事にしたい」と思わせるためには、一定の構成ルールと、記者の視点に立った内容設計が必要だ。
本章では、プレスリリースの基本構成から、磨き込まれた表現技術まで、実際に使える形で完全解説する。
11-1. プレスリリースの基本構成
標準的なプレスリリースは以下の構成要素で構成される:
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【配信日付】令和○年○月○日
【配信元】株式会社○○(鹿児島県○○市)
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【大見出し(ヘッドライン)】
インパクトのある1行(35文字以内推奨)
【小見出し(サブヘッドライン)】
ヘッドラインを補足する2行以内の説明
【リード文(Lead paragraph)】
5W1Hを含む最重要情報の要約(2〜3文)
【本文(Body)】
詳細情報・背景・引用・データ
【概要・商品情報ボックス】
料金・仕様・販売日等を箇条書きで整理
【会社概要】
企業基本情報
【お問い合わせ先】
担当者名・電話・メールアドレス
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【図11-1】プレスリリースの視覚的構成(逆ピラミッド構造)
11-2. 各要素の書き方 ― 実例と解説
ヘッドライン(大見出し)― プレスリリースの「顔」
ヘッドラインは記者が最初に目にする部分であり、30秒以内に「読む価値あり」と判断されなければ、プレスリリース全体が読まれない。
良いヘッドラインの条件: – 35文字以内(短くても30文字前後) – 「何が」「どうなった/どうする」が一目でわかる – 数字・地名・固有名詞を使って具体性を出す – ポジティブで行動を示す動詞を使う
悪い例 vs. 良い例:
| 悪い例 | 良い例 |
|---|---|
| 新商品が出ます | 鹿児島産黒豚100%使用のプレミアムソーセージ、12月1日新発売 |
| 取り組みを始めました | 廃校活用で鹿児島初の農家レストランをオープン、地元農家10軒と提携 |
| 受賞しました | 「薩摩の本格焼酎」がモンドセレクション金賞受賞、県内蔵元で5年連続 |
リード文(導入部)― ここで記事になるか決まる
記者はリード文(最初の2〜3文)を読んで、「記事になるかどうか」を判断する。
リード文に含める5W1H: – When:いつ発表・開始するか – Who:誰が(企業名・主体) – What:何を – Where:どこで – Why:なぜ(背景・意義) – How:どのように
リード文の実例:
株式会社○○(鹿児島県薩摩川内市、代表取締役○○)は、
鹿児島産黒豚のみを使用した「さつまの黒豚ソーセージ」を
2024年12月1日より全国通販サイトおよび直売所にて販売開始します。
原材料から製造まで鹿児島県内で一貫生産し、
農薬・添加物不使用にこだわった本製品は、
地元の農家との15年間の信頼関係から生まれた一品です。
本文 ― 記者が記事を書くために必要な情報を提供する
本文では、ヘッドライン・リード文で示した情報を詳しく掘り下げる。
本文に盛り込むべき内容:
- 詳細な商品・サービス情報:特徴・仕様・価格・販売チャネル
- 背景・経緯:なぜこの商品が生まれたか、課題解決の文脈
- ストーリー性:開発秘話、生産者との関係、こだわりのエピソード
- 引用(クォート):代表者や関係者のコメント(実名・役職付き)
- データ・根拠:数字・調査結果・実績
引用の書き方: 代表者のコメントをプレスリリース内に引用として入れることで、記者が「談話」として記事に使えるようになる。
例:
代表取締役○○は「私たちが農家の皆さんと築いてきた15年間の信頼関係が、
この商品のすべてです。一切妥協しない素材へのこだわりを、
消費者の皆様に直接お届けできることを嬉しく思います」と語っています。
11-3. ニュース価値を高める「切り口」の設計
同じ商品でも、切り口(フレーミング)によってニュース価値は大きく変わる。
切り口のバリエーション
| 切り口 | 例 |
|---|---|
| 地域一番・県内初 | 「鹿児島県内初の〇〇」「薩摩地方初の取り組み」 |
| 社会課題との結びつき | 「農家の後継者不足問題に新たなアプローチ」 |
| 話題のトレンドとの接続 | 「SDGs達成に向けた○○の取り組み」 |
| 記念日・アニバーサリー | 「創業100周年を記念した限定商品」 |
| 人物ストーリー | 「20代の若き蔵元が起こす焼酎革命」 |
| 数字・データ | 「年間10万本販売の人気商品がリニューアル」 |
| タイムリー性 | 「新芋焼酎の季節到来、今年の収穫と仕込みの様子」 |
【図11-2】切り口(フレーミング)による配信先の変化
同じ情報(例:鹿児島の黒豚ソーセージの新商品発売)でも…
切り口A:「地域初の取り組み」 ───────→ 南日本新聞・地元TV
↓
切り口B:「食の安全・安心」 ───────→ 食品専門誌・健康情報サイト
↓
切り口C:「生産者との絆」 ───────→ 農業メディア・NHK農業特集
↓
切り口D:「SDGs・環境配慮」 ───────→ 全国紙のSDGs面・Web
↓
切り口E:「インバウンド対応」 ───────→ 観光メディア・英語サイト
▶ 1つのプレスリリースを5通りに書き分ければ
1つのネタで複数メディアにアプローチできる11-4. プレスリリースの写真・ビジュアル素材
写真素材がプレスリリースの価値を倍増させる
特にWebメディアやSNSでは、高品質な写真がなければ掲載されないことも多い。
プレスリリースに同梱すべき写真: – 商品・サービスの写真(白背景・シーン背景の両方) – 代表者・担当者の写真(正面顔写真・作業中写真) – 製造現場・農場・店舗の写真 – データビジュアル(グラフ・図)
写真の仕様: – 解像度:300dpi以上(印刷対応) – サイズ:最短辺1000px以上 – ファイル形式:JPEG(Print)またはPNG(Web) – 使用許可:掲載する人物の写真使用許可を必ず取得
11-5. メディア別プレスリリースのカスタマイズ
同一の情報でも、送り先のメディアによって強調する内容を変えることが効果的だ。
新聞向け
- 社会的な影響・意義を前面に出す
- 地域経済への貢献を示す数字を含める
- 客観的な事実情報を中心に構成する
テレビ向け
- 撮影可能な場面・日程を具体的に記載する
- 視覚的に面白い映像が撮れるシーンを提案する
- 出演可能な担当者の情報を明記する
Webメディア向け
- SEOを意識したキーワードを適切に含める
- SNSでシェアされやすいユニークな角度を出す
- ハイパーリンク可能な参考URL・公式サイトを明記する
【図11-3】プレスリリースの年間配信カレンダー(最適タイミング)
月 │ 最適な配信ネタ │ 注意点 ──────┼─────────────────────────────┼────────────────────── 1月 │ 新年の取り組み・目標 │ 大型連休明け(1/4〜)から 2月 │ バレンタイン関連・新商品 │ 1週間前までに配信 3月 │ 年度末・春の新情報 │ 卒業・新生活と絡める 4月 │ 新年度スタート・新サービス │ GW前(4/25まで)が吉 5月 │ GW体験レポート・新商品 │ GW中は避ける 6月 │ 夏季商品・環境・梅雨ネタ │ 時候の話題と組み合わせ 7月 │ 夏祭り連携・新商品 │ 猛暑ネタとセットで 8月 │ 帰省土産・ふるさと納税 │ お盆前(8/10まで) 9月 │ ★新芋シーズン・秋新商品 │ 食欲の秋に合わせて 10月 │ 秋収穫・ハロウィン連携 │ ギフトシーズン序盤 11月 │ 受賞・認定・年間実績 │ 年末特集の取材前 12月 │ ギフト・来年の予告 │ 12/15以降は避ける ──────┴─────────────────────────────┴────────────────────── ★ 配信曜日:火〜木が最適 / 配信時間:午前9〜11時が最適
11-6. プレスリリース配信のタイミングと方法
最適な配信タイミング
曜日: 火曜〜木曜が最適(月曜は前週の処理で忙しく、金曜は週末前で注目度が下がる)
時間: 午前9時〜11時の配信が最も読まれやすい(記者が朝の情報収集をするタイミング)
避けるタイミング: – 大型連休前後(読まれない) – 大きなニュース(災害・選挙・政変)が発生した直後(埋もれる) – 競合他社が大型発表をした同日(注目が分散する)
配信先リスト
基本の配信先: 1. プレスリリースかごしま(地元密着配信の起点) 2. PR TIMES(全国配信) 3. メディアリスト(直接送付)
メディアへの直接送付の際: – 担当記者名を宛名に入れる(「報道部御中」より個人名宛が望ましい) – メールの件名:「プレスリリース:(ヘッドライン)」 – 本文に簡単な挨拶文を添え、プレスリリースをPDFで添付する
11-7. プレスリリーステンプレート(鹿児島企業向け)
まとめ ― 本章のポイント
- プレスリリースは「記者が記事を書きやすい情報」を提供する文書
- ヘッドライン(35文字以内)で瞬時に興味を引き、リード文で全体を把握させる
- 切り口(フレーミング)を工夫し、「地域初・社会課題・人物ストーリー」などでニュース価値を高める
- 高品質な写真素材は掲載率を大幅に高める必須要素
- 配信先(プレスリリースかごしま・PR TIMES・直接送付)を使い分け、火〜木の午前中に配信する
次章では、年間の広報活動を計画的に設計する「広報計画書」の作り方を解説する。
本記事は「プレスリリースかごしま」広報ナレッジシリーズの第11章です。