第8章:Earned Media(アーンドメディア)攻略法 ― メディアに「自ら取り上げたい」と思わせる技術


目次

はじめに ― プレスリリースを出しても掲載されない本当の理由

「プレスリリースを出したが、何も反応がなかった」これは多くの中小企業の広報担当者が経験する壁だ。

なぜプレスリリースは掲載されないのか。答えは一言で言えば「記者が書きたいと思う情報になっていないから」だ。

Earned Mediaを「稼ぐ」ためには、自社の都合ではなく、記者・メディア・読者の視点から情報を設計することが不可欠だ。本章では、その技術を徹底的に解説する。


8-1. Earned Mediaの価値を再確認する

なぜEarned Mediaが最高の広報資産なのか

Earned Mediaが持つ3つの価値:

1. 信頼性(Credibility) 第三者(記者・編集者)が取材し、事実確認を経て掲載した情報は、企業が自ら書いた広告より圧倒的に信頼される。「あの新聞に載っていた」という事実は、長期間にわたって信頼の根拠として機能し続ける。

2. 波及性(Virality) テレビ・新聞での紹介をきっかけに、SNSでの拡散・口コミの連鎖が起きる。一つのEarned Media獲得が、複数のShared Mediaを呼ぶ「連鎖効果」が期待できる。

3. 永続性(Longevity) Webメディアに掲載された記事は、検索エンジンで永続的にインデックスされ、後から検索した人にも情報が届き続ける。広告費を払い続けなくても、情報資産として蓄積される。


8-2. ニュース価値(ニュースバリュー)を理解する

記者がプレスリリースを読んで「これは記事になる」と判断するのは、そのネタが「ニュース価値(ニュースバリュー)」を持っているときだ。

ニュース価値の7要素

要素説明
新規性(Newness)初めての取り組み、初登場「鹿児島初の○○」「県内唯一の○○」
近接性(Proximity)読者・視聴者に近い地域・コミュニティ地元で起きている話題
影響性(Impact)多くの人に影響を与える内容「地域の雇用創出」「環境改善」
著名性(Prominence)有名人・有名ブランドとの関連著名人との連携、大企業との提携
人間性(Human Interest)感動・共感・驚きを生む人物ストーリー三代目後継者、障がいを乗り越えた職人
タイムリー性(Timeliness)現在進行中の社会的話題と結びつくSDGs、DX、移住・定住ブーム
珍奇性(Oddity)珍しい・意外な・驚きがある内容「焼酎×スイーツ」「農家がIT活用」

ニュース価値チェックシート

プレスリリースを書く前に、以下のチェックを行う:

  • 「初めて」「唯一」「日本一」などの言葉が使えるか?
  • 鹿児島・地域に特有の情報が含まれているか?
  • 具体的な数字・データがあるか?
  • 顔の見える人物(代表者・職人・農家等)が登場するか?
  • 現在注目されているトレンドと関連するか?
  • 読者の日常生活に影響がある内容か?
  • 「なぜ今なのか」という理由が説明できるか?

3つ以上チェックがつけば、メディアが関心を持つ可能性が高い。

【図8-1】ニュース価値チェック ― 3つ以上でメディアが動く

チェック数と掲載可能性の目安

  ✓✓✓✓✓✓✓ 7個  │██████████████████████████████  掲載確率 非常に高い
  ✓✓✓✓✓✓  6個  │████████████████████████        掲載確率 高い
  ✓✓✓✓✓   5個  │████████████████████            掲載確率 高い
  ✓✓✓✓    4個  │████████████████                掲載確率 中〜高い
  ✓✓✓     3個  │████████████                    掲載確率 中(要工夫)
  ✓✓      2個  │████████                        掲載確率 低い
  ✓       1個  │████                            掲載確率 ほぼゼロ
           0個  │                                配信しても無反応
                └──────────────────────────────────────────

  ★ 目安:3つ以上で配信、5つ以上で積極的にTV・新聞へ提案する

8-3. プレスリリース作成の基本構造

プレスリリースはEarned Media獲得の最も基本的なツールだ。記者に「この話題を記事にしたい」と思わせるプレスリリースの書き方を理解しよう。

(詳細な書き方は第11章「プレスリリース作成完全ガイド」で解説するため、本章では戦略的な観点を中心に解説する)

プレスリリースの5W1H

記者が記事を書くために必要な情報を確実に含める:

  • Who:誰が(企業名・担当者・登場人物)
  • What:何を(製品・サービス・取り組みの内容)
  • When:いつ(発表日・発売日・イベント日程)
  • Where:どこで(場所・販売チャネル)
  • Why:なぜ(背景・理由・社会的文脈)
  • How:どのように(方法・価格・手順)

8-4. メディアリレーションの構築 ― 記者との信頼関係を作る

プレスリリースを送るだけでなく、記者との継続的な信頼関係を構築することが、Earned Media獲得の長期的な基盤となる。

【図8-2】Earned Media獲得までのフロー

メディアリストの作成

まず、アプローチするメディアと担当記者のリストを作成する。

鹿児島のメディアリスト構築のポイント:

メディア調べ方
南日本新聞紙面の記事を読み、担当記者名・担当分野を把握する
MBC・KYT等番組の制作スタッフクレジット・公式サイトの問い合わせ先を確認
Webメディア記事の署名(ライター名)を確認し、SNSアカウントをフォロー
専門誌編集部の連絡先を公式サイトで確認

記者情報の管理項目: – 氏名・所属・担当分野 – 連絡先(メールアドレス) – 関心が高いテーマ(過去の記事から推測) – 過去のやり取りの記録

記者との関係構築5つの原則

原則1:まず「与える」こと プレスリリースの送付だけでなく、記者が記事を書くのに役立つ情報を提供する。「○○というデータが面白いので参考にしてください」というスタンスが大切だ。

原則2:記者の立場で考える 記者は「読者にとって価値ある情報を提供する」プロフェッショナルだ。自社の都合ではなく、「この情報がなぜ読者の役に立つか」を伝える。

原則3:スピーディに対応する 取材の問い合わせには、可能な限り24時間以内に返答する。記者にとって締め切りは命だ。迅速な対応が信頼を生む。

原則4:正確な情報を提供する 嘘・誇張・不正確な情報は絶対に提供しない。一度でも不正確な情報を提供した企業の信頼は、記者の間で急速に失われる。

原則5:掲載後の感謝と継続的なフォロー 記事が掲載されたら、担当記者に感謝の連絡を入れ、「次もぜひ情報提供させてください」という関係継続の意思を伝える。


8-5. メディア別アプローチ戦略

【図8-3】鹿児島主要メディア別の特性と最適なネタ

メディア         │ 特性           │ 最適なネタ              │ 難易度
─────────────────┼────────────────┼─────────────────────────┼───────
南日本新聞        │ 地域情報の基幹 │ 新事業・採用・社会貢献  │ ★★★
MBC南日本放送    │ 映像・生活情報 │ 食体験・人物ストーリー  │ ★★★★
KYT・KKB等       │ 夕方ニュース   │ ユニークな地元の動き    │ ★★★★
NHK鹿児島        │ 高信頼・公共性 │ 農業・文化・社会課題    │ ★★★★★
鹿児島経済新聞   │ BtoB・ビジネス │ 新規事業・採用・DX     │ ★★
旅行・観光メディア│ 全国読者向け  │ 鹿児島体験・食・宿泊   │ ★★★
食専門メディア   │ 食のプロ向け  │ 食材・製法・生産者話    │ ★★

地方紙(南日本新聞等)

鹿児島最大の日刊紙は、地域経済・文化・農業・観光など幅広いテーマを扱う。

アプローチのポイント: – 読者の多数を占める一般市民にとって「身近で関心の高い話題」を提供する – 経済面・文化面・生活面など掲載面に合わせてプレスリリースの切り口を変える – 専門的すぎるネタは専門面(農業面・産業面等)の担当者に直接アプローチする

掲載可能性が高いネタ: – 地域の新しい取り組み(起業・新サービス・社会貢献) – 地元の農業・水産業に関する話題 – 採用・雇用創出の取り組み – 地域イベントへの参加・協賛

テレビ(MBC・KYT・KKB等)

テレビは「映像で見せられるか」が最も重要だ。

テレビ向けネタの条件: – 画面を通じて視覚的に興味深い映像が撮れる – 取材を受ける人物の話が面白い・感動的・ユニーク – 視聴者が「へぇ!」と思う発見がある

アプローチ方法: プレスリリースに「撮影可能なシーン・場所・タイミング」を具体的に記載する。「製造現場の撮影可能」「職人の作業中の撮影OK」など、映像素材のイメージを記者・ディレクターに伝える。

Webメディア・ポータルサイト

Webメディアの最大の強みは、記事が永続的にインターネット上に残ることだ。SEO効果と組み合わせることで、長期的な認知向上につながる。

Webメディア向けネタの条件: – 検索需要があるキーワードと関連している – SNSでシェアされやすい「意外性・感動性」がある – 詳しい情報・データが含まれている


8-6. Earned Media獲得後の最大化戦略

Earned Mediaが獲得できたら、それをさらに活用する「最大化戦略」が重要だ。

掲載後のアクション

1. 自社メディアでの二次利用(Owned Media展開) – 自社Webサイトのトップページ・「メディア掲載情報」ページに掲載 – 「○○新聞に掲載されました」という告知メールをメルマガ読者に送信 – 採用ページに「メディア掲載実績」として活用

2. SNSでの拡散(Shared Media展開) – 記事のリンクをInstagram・Facebook・Xで投稿 – 「◯◯新聞に取り上げていただきました」という形式で投稿 – 従業員にも個人SNSでシェアを促す(許可の範囲内で)

3. Paid Mediaでの増幅(Paid Media展開) – 掲載されたWebメディアの記事URLをFacebook広告でプロモーション – 掲載記事を見た後に自社サイトを離れたユーザーへのリマーケティング広告


まとめ ― 本章のポイント

  • Earned Mediaは信頼性・波及性・永続性を持つ最も価値の高い広報資産
  • ニュース価値の7要素(新規性・近接性・影響性・著名性・人間性・タイムリー性・珍奇性)を意識して情報を設計する
  • 記者との関係構築は「与えること」から始め、スピードと誠実さで信頼を積み上げる
  • メディア別(新聞・テレビ・Web)にアプローチ方法を変える
  • 掲載後は必ずOwnedとSharedで「最大化」を図る

次章では、現代の広報で欠かせないShared Media(シェアードメディア)のSNS戦略を解説する。


本記事は「プレスリリースかごしま」広報ナレッジシリーズの第8章です。

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