第6章:STP戦略を広報に応用する ― 「選ばれる企業」になるためのポジショニング設計


目次

はじめに ― 「何でも屋」は選ばれない

広報において最もよくある失敗の一つが、「あらゆるステークホルダーにあらゆる情報を発信しようとする」ことだ。予算や人員が豊富な大企業でさえこれは難しく、リソースが限られる中小企業にとっては確実に失敗のルートになる。

STP戦略は、自社が「誰に」「何を」「どのように見せるか」を明確に定義することで、限られたリソースで最大の広報効果を上げるための戦略設計フレームワークだ。

STPとは: – Segmentation(セグメンテーション):市場・ステークホルダーを分類する – Targeting(ターゲティング):最も注力する対象を選ぶ – Positioning(ポジショニング):自社の独自の立ち位置を定める

【図6-1】STP戦略の全体フロー


6-1. Segmentation(セグメンテーション)― ステークホルダーをグループ分けする

セグメンテーションの定義

セグメンテーションとは、市場やステークホルダーを似た特性を持つグループ(セグメント)に分類する作業だ。

マーケティングでは「顧客を分類する」ために使うが、広報ではより広く「ステークホルダー全体を意味のある単位に分類する」ために活用する。

4つのセグメンテーション基準

1. 地理的基準(Geographic) – 鹿児島県内 / 九州圏内 / 全国 / 海外 – 都市部 / 農村部 – 特定の地域(薩摩地方、南薩、大隅、奄美等)

2. デモグラフィック基準(Demographic) – 年齢:10代・20代・30代・40〜50代・60代以上 – 性別:男性・女性・性別不問 – 職業:会社員・経営者・農業従事者・学生・主婦 – 年収・規模:個人・中小企業・大企業

3. サイコグラフィック基準(Psychographic) – 価値観:環境意識高い・ライフスタイル重視・コスト重視 – ライフスタイル:アクティブ・家族中心・仕事重視 – 関心領域:グルメ・旅行・健康・農業・文化

4. 行動的基準(Behavioral) – 購買頻度:新規・リピーター・ヘビーユーザー – 情報収集方法:SNS中心・新聞中心・口コミ重視 – ブランドロイヤルティ:高・中・低

広報における「ステークホルダーセグメント」の例

以下は鹿児島の食品加工業者(例:漬物・佃煮メーカー)における、広報視点でのセグメント例だ:

セグメント名特徴主な情報ニーズ
グルメ好き観光客40〜60代、鹿児島観光中、食の体験に高い関心鹿児島らしい食体験・お土産情報
地元の家庭全年齢、日常の食卓に鹿児島の味を求める使いやすい調理提案・季節商品情報
地元飲食店・料理人B2B、鹿児島産素材を重視業務用大量注文・産地情報・品質保証
首都圏の鹿児島出身者30〜60代、故郷の味を懐かしむ通販・ふるさと納税・贈り物情報
メディア関係者全国・地域メディア、鹿児島の食文化ネタを探しているプレスリリース・取材可能情報・写真素材

6-2. Targeting(ターゲティング)― 「重点的に関係を築く相手」を選ぶ

なぜターゲティングが必要か

セグメントを特定したら、次はその中から「最も優先的に広報活動のリソースを投下するセグメント」を選ぶ。これがターゲティングだ。

ターゲティングが必要な理由: 1. リソース(人・時間・予算)は有限なので、分散させると薄まる 2. セグメントごとにメッセージ・チャネルが異なるため、全方位は不可能 3. 「誰にでも刺さる」メッセージは「誰にも深く刺さらない」

ターゲティングの評価基準(6R)

各セグメントを以下の6つの基準で評価し、スコアの高いセグメントをターゲットとして選択する:

評価基準内容
Realistic scale(規模の現実性)そのセグメントは十分な人数・取引量があるか
Rate of growth(成長率)そのセグメントは今後成長しているか
Rank(優先度)そのセグメントへのアプローチは自社の経営戦略と合っているか
Reachability(到達可能性)そのセグメントに効率的に情報を届けられるか
Response(反応可能性)そのセグメントは自社のメッセージに反応・行動する可能性が高いか
Rival(競争強度)そのセグメントで、競合と比べて自社は優位に立てるか

メディアをターゲティングする

広報において最も重要なターゲティング対象の一つが「メディア」だ。

鹿児島のメディアのセグメントと特徴:

メディア種別特徴適したネタ
南日本新聞鹿児島最大の日刊紙、地域の総合情報新事業・社会貢献・採用・地域連携
MBC南日本放送テレビ・ラジオ、エンタメ・生活情報に強い食・生活提案・人物ストーリー
KYT鹿児島読売テレビ夕方ニュースの地域ネタ地元の新しい動き・ユニークな取り組み
鹿児島経済新聞ビジネス特化、BtoB情報新規事業・採用・経営改革
旅行・観光メディア全国の旅行ガイド・観光サイト鹿児島体験・食・宿泊
食専門メディアグルメ・農業・食文化の専門情報食材・製法・生産者ストーリー

メディアターゲティングの実践:

プレスリリースを送る際は、「このネタは南日本新聞の○○面向け」「このネタはMBCの夕方番組向け」と具体的なターゲットメディアと掲載面を想定して書くことで、記者の「あ、これは使えるな」という感覚に合致しやすくなる。


6-3. Positioning(ポジショニング)― 「○○と言えば○○」という独自の席を獲得する

ポジショニングの定義

ポジショニングとは、ターゲットの心の中に自社・自社製品の独自の立ち位置を確立することだ。

広報におけるポジショニングは、単なる「差別化」ではなく、「ステークホルダーの認識の中に唯一無二の席を確保すること」を目指す。

例: – 「鹿児島の黒豚といえばA社」 – 「鹿児島のSDGs企業といえばB社」 – 「鹿児島の採用ブランドといえばC社」

このような「○○といえば○○」という認識を獲得することが、ポジショニングの最終ゴールだ。

ポジショニングマップの作成

ポジショニングマップとは、2つの軸を設定し、競合と自社の立ち位置を視覚的にマッピングするツールだ。

軸の設定例(食品メーカーの場合):

高価格・プレミアム
              ↑
競合D●        │      ●競合A
              │
              │   ★自社(理想の位置)
 大量生産─────┼────────────────少量手作り
              │
競合B●        │         ●競合C
              │
              ↓
         低価格・大衆

このマップで「少量手作り × 中〜高価格」という自社のポジションを視覚的に確認し、競合が少ない領域に自社のポジションを設定することが戦略的なポジショニングだ。

【図6-2】鹿児島食品メーカーのポジショニングマップ(例)

少量手作り・こだわり
                              │
              ★自社(目標)   │
            ╱(伝統×高品質)  │
      高   ╱                  │         ● 競合A
      価  ╱                   │        (輸入素材・プレミアム価格)
      格─────────────────────●─────────────────────────────
           ● 競合B             │              ● 競合C
      低  (地元大量生産)      │          (大手チェーン・安価)
      価                       │
      格                       │
                               │
                          大量生産・規格品

      ※ 「少量手作り × 中〜高価格」ゾーンに競合が少ない = チャンス

広報メッセージのポジショニング

ポジションが決まったら、それを一貫したメッセージで表現する「ポジショニングステートメント」を作成する。

ポジショニングステートメントの構造:

(ターゲット)にとって、
(自社/製品)は、
(競合・代替品)とは違い、
(独自の価値)を提供する。
なぜなら、(証拠・根拠)があるからだ。

例(鹿児島の焼酎蔵):

焼酎の本物の味を求める食通にとって、
○○酒造は、
大量生産の焼酎とは違い、
80年続く伝統の甕壷仕込みによる深みのある味わいを提供する。
なぜなら、蔵元が直接契約農家と関係を築き、厳選した芋のみを使用しているからだ。

ポジショニングを広報活動全体で一貫させる

作成したポジショニングステートメントは、以下のすべての広報活動の「核」となる:

  • プレスリリースのリード文(最初の3行)
  • WebサイトのキャッチコピーとAboutページ
  • SNSのプロフィール文
  • パンフレット・展示会の紹介文
  • メディア取材時の口頭説明

一貫したポジショニングメッセージを繰り返し発信することで、ステークホルダーの認識に「〇〇といえばこの会社」という刷り込みが生まれる。


6-4. STPとPESOモデルの連携

STPで「誰に」「何を」「どのように見せるか」が決まったら、次はPESOモデル(第2章)と連携させて「どのチャネルで届けるか」を設計する。

STPの決定事項PESOとの連携
Target:首都圏の食通Paid(Instagram広告・首都圏ターゲット)、Earned(東京のグルメメディアへのプレスリリース)
Positioning:少量手作りの本物Owned(製法を詳しく説明するブログ記事・YouTube動画)、Shared(製造工程の動画がSNSで拡散)

STP×PESOの統合マトリクス

ターゲットポジショニングメッセージPaidEarnedSharedOwned
地元グルメ好き地元素材の誠実な製品Instagram地域広告南日本新聞Instagram口コミ自社ブログ
全国の食通鹿児島産の本物なし東京の食メディアフード系インフルエンサー通販サイト
メディア関係者取材価値あるストーリーなしプレスリリース配信なしプレスリリースアーカイブ

【図6-3】STP×PESOの統合設計フレームワーク


まとめ ― 本章のポイント

  • STPは「誰に(Segmentation→Targeting)」「どう見せるか(Positioning)」を設計するフレームワーク
  • セグメンテーションはステークホルダーを意味ある単位に分類し、ターゲティングで最優先対象を絞る
  • ポジショニングで「○○といえば○○」という独自の認識を競合のいない位置に設定する
  • ポジショニングステートメントを作成し、すべての広報活動で一貫したメッセージを発信する
  • STPとPESOを連携させることで「誰に・何を・どのチャネルで」の統合広報戦略が完成する

次章から、PESOモデルの各メディアを個別に詳しく解説する。まずはPaid Media(有料メディア)から始める。


本記事は「プレスリリースかごしま」広報ナレッジシリーズの第6章です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次